『FORTUNE・ARTERIAL』紅瀬桐葉(裏)ルート・5
2008年09月02日16:59
『FORTUNE ARTERIAL』紅瀬桐葉(裏)ルート・4

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『FORTUNE・ARTERIAL』紅瀬桐葉(裏)ルート・5

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コテージの前のテーブルに戻ると、既に炭が熾され、バーベキューの準備は終わっていた。

司が肉を焼き始めている。

【司】「孝平、遅かったから、毒見してやってるぞ。」

【翼】「もう、司。お行儀悪いってば。」

【司】「毒見は大事だぞ。もしも悪いものが入ってたら大変だろ。
う、うんむ、うまい。あ、熱っ。」

翼ちゃんに怒られながら、司が肉を頬張った。

【司】「・・・どうした?孝平?
なんかあったのか?」

陽菜と俺、そして何よりかなでさんのテンションの低さに司が気づく。

【孝平】「いや、大丈夫だ。
陽菜がちょっと気分が悪くなったみたいで。」

【司】「悠木、大丈夫か?」

【陽菜】「うん、八幡平君。今は、だいぶいいの。
準備、おつかれさま。」

【司】「俺はコンロを運んで炭火を熾したくらいだ。
あとは、紅瀬と翼がほとんどやってくれた。」

桐葉と翼ちゃんの目の前には、大量の肉と、切った野菜が並べられていた。
二人は、レストランのウエイトレスのように、にっこり微笑む。
この量・・・圧倒的だ。食べきれるだろうか。

【かなで】「よーし、ガンガン食べるぞー。
へーじ、お肉、どんどん焼いてよ。」

かなでさんが、右手を挙げて叫ぶ。
いつものテンションに戻っている。
だが、いつものテンションと違い、陽菜の事を気遣わせまいとしているように、俺には見えた。

陽菜は、今は特に変わった様子は無い。

俺は、テーブルから少し離れた場所に薪を置いて、席に着いた。
陽菜の事は、少し気にしすぎかもしれない。
きっと、大丈夫なんだろう。



バーベキューコンロで、司が肉を焼く。
かなでさんが大奮発した分厚い国産牛肉は、程よく霜が降って、芸術的なピンク色をしていた。
表面が焦げるとともに、肉汁が染み出し、それが炭に落ちて炎をあげる。

【かなで】「へーじ、そこ!焼きすぎちゃダメだよ。」

【司】「了解だ、かなで。」

司がかなでさんの指示に従い、手際よく肉をひっくり返し、焼けた肉を大皿に置く。
かなでさんは大皿に置かれた肉を、みんなの皿にどんどんのせていってくれた。

【かなで】「みんな、遠慮は無用だよ!
まずは、シンプルに、塩や胡椒で食べてみて。」

俺は、かなでさんが取り分けてもらったお肉に塩を軽く振って、ぱくっと口に入れた。

すさまじく、旨い。
司の焼き加減は、俺のストライクゾーンだった。
周囲は程よくこんがりと焼けている。
口に含み、噛むというより噛むために少し力を加えただけで肉がとろけていく。
肉だけでも十分に旨いが、シンプルな塩が肉の旨みを引き立てている。
旨すぎて、涙が流れそうになった。

【孝平】「司。芸術的に、旨い。かなでさん、お肉、最高です。」

司が満足そうに笑った。
かなでさんは腕組みして、うんうんとうなずいている。

翼ちゃん、陽菜も肉のおいしさに歓声をあげた。
桐葉さえも、顔がほころんでいる。

司は、料理人に向いているのかもしれない。



突然、車のエンジン音が聞こえた。

かなり大きい黒い車。
俺は車に詳しくないので車種などはよくわからなかったが、大陸縦断ラリーなどで見るような、オフロードも自在に走れそうな車高の高い車だ。
タイヤも、そこら辺の車とは比べものにならないくらいデカい。

迷いの無い正確な動きで駐車場に停まったその車から、東儀先輩が降りてきた。
東儀先輩は、助手席側に回って、ドアを開ける。
助手席から、白ちゃんが降りてきた。

白ちゃんは俺達を見つけて、駆け寄ってきた。

【白】「みなさん。お久しぶりです。今日はよろしくお願いします。」

【征一郎】「みんな、遅くなって済まない。」

時計を見ると、3時半だった。

【孝平】「ご無沙汰してます。東儀先輩。すみません。先に頂いてます。」

【征一郎】「支倉、久しぶりだな。気にするな。」


そして、東儀先輩と白ちゃんの視線が、翼ちゃんで止まった。
二人とも少なからず、驚いているようだ。
それに気づいた司が、口を開く。

【司】「あ、俺の双子の妹で、八幡平翼です。
どうしても同窓会について来るって言い出して。すいません。」

【征一郎】「同窓会と言っても、仲間内だけのものだ。気にする事は無い。
しかし・・・本当に似ているな。」

【白】「私も、ビックリしました。」

【翼】「翼です。よろしくお願いします。」

翼ちゃんが東儀先輩と白ちゃんにお辞儀する。
白ちゃんは、いえいえこちらこそと慌ててお辞儀した。


【かなで】「あっーーーーー!!へーじ!ほら、お肉が燃えてる!!!」

【司】「うわ、やっべ。」

五切れほどの肉がコンロの上で真っ黒になり、炎を上げていた。
司が肉をコンロから取り去る。もう、肉と言うより炭になっている。
司は炭に向かって、静かに合掌した。

【かなで】「へーじ、しっかり頼むよ。火事になったら困るからね。」

【司】「へーい。」

【かなで】「白ちゃん、せーちゃん、お肉たっくさんあるから、遠慮なく食べてね。私のおごりだよ!」

かなでさんはそう言って、親指を二人に向かってグッと突き立てた。

【征一郎】「悠木、すまんな。
白、お言葉に甘えて、いただくとするか。」

【白】「はい、兄さま。
悠木先輩、いただきます。」


二人がお皿を持って、バーベキューの輪に加わり、今回の同窓会のメンバーが揃った。
肉を食べながら、昔話や、各自の近況の話に花が咲く。
懐かしく、楽しい時間だった。



夕焼けが、西の空に広がっている。
あれだけあった肉も野菜も、片付いてしまった。
こういう場所で、みんなで食べると食欲が増すんだろう。
昼間にたらふく素麺を食べていた俺も、かなりの量の肉を食べた気がする。

最後に、桐葉が切り分けてくれたスイカをみんなでパクついた。

【かなで】「ふー、余は満足じゃ。」

【白】「おなか一杯です。」

【孝平】「かなでさん、お肉、おいしかったよ。
司。料理の才能、あると思うぞ。」

【司】「そっかー?肉、焼いただけだぞ。ま、お言葉はありがたく受け取っておく。」

全員に、まったりとした空気が流れる。
桐葉と翼ちゃんが片づけを始めてくれた。

【桐葉】「貴方は、ゆっくりしていて。」

夕焼けが、夕闇に変わりつつあった。


夕焼けを見ていた俺は、ふと、ある事を思い出した。
夕焼けのこの赤い色は、何かに似ていると思った。
どこかで見た事があると思った。

そうだ。

俺の記憶の中でも、一際輝いている、深い真紅の双眸。


− 瑛里華 −


瑛里華は一体どうしているんだろう。
今回の同窓会を伝えようとしたが、連絡が一切取れなかった。

そして、気づいた。
俺は生徒会役員として会長の瑛里華を1年間支えたが、結局、彼女の事を何も知らなかったんじゃないだろうか。
瑛里華は、一人でずっと悩んでいたんじゃないだろうか。
俺は彼女の心に、少しも触れる事はできなかったんじゃないだろうか。

瑛里華、桐葉、白ちゃん、伊織先輩、東儀先輩。
一緒に監督生室で過ごした長い時間。

瑛里華の心には、どう映っているのだろうか・・・。


今回、瑛里華の事をどうしても東儀先輩に聞いてみたかった。
東儀先輩なら伊織先輩とも親しいはずだ。
何か知っているのかもしれない。

東儀先輩は、白ちゃんと同じテーブルに座っていた。

【孝平】「東儀先輩。聞きたい事があるんですが。」

【征一郎】「なんだ?支倉。」

【孝平】「あの、瑛里華の事なんですけど。」

東儀先輩の顔が、わずかにこわばったように見えた。
ほんのわずかな変化だ。そして、すぐに消えた。
俺は、その変化に気づかないフリをして、続けた。

【孝平】「同窓会に呼ぼうと思って、瑛里華の携帯に電話したんですけど、全然連絡が取れなかったんです。伊織先輩もです。東儀先輩、何か知りませんか?」

【征一郎】「支倉、これは千堂家の問題だ。
俺は、知っていても何も言えない。
そして、誰も千堂家の事情に口出しをすべきではないと俺は思う。」

やはり東儀先輩は何か知っている。
そんな返事じゃ、俺は、やりきれない。
瑛里華の力になりたいと思った。

【孝平】「お願いです。東儀先輩。瑛里華に何があったのか、教えて下さい。」

【征一郎】「聞いてどうする。
お前にはどうにもならん。
そして、瑛里華は、お前に頼る事を望んでいない。」

瑛里華が俺に頼る事を望んでいない?
一体、どういう意味だ?
わけがわからないまま、ショックだった。


【白】「支倉先輩、瑛里華先輩を助けてあげて下さい。」

白ちゃんが、泣いていた。

【征一郎】「白・・・」

【白】「兄さま。私はもう我慢できません。
支倉先輩、聞いて下さい。」

白ちゃんは、涙をぬぐおうともせずに話し始めた。

【白】「支倉先輩。
瑛里華先輩は、千堂家のお屋敷に閉じ込められているのです。
瑛里華先輩は、眷族を作るという約束で、3年間、学院に通うことをお母様から許されました。
そして、瑛里華先輩は、眷族を作らなかったのです。
最初から、眷族を作る気は無かったんです。最初からお屋敷に戻ると決めていたのです。
瑛里華先輩は、支倉先輩に頼りたくなかったんじゃありません。
支倉先輩も、誰も、眷族にしたくなかったんです。」


白ちゃんの言葉に、俺は目の前が真っ暗になった。

瑛里華が、屋敷に閉じ込められている!?

瑛里華は、最初から3年間だけ外の世界で過ごすつもりだったのか。
今、瑛里華は、俺達との時間を胸に抱えて、屋敷の中で過ごしているのか。
もう、永遠に屋敷から出る事は出来ないのか。

瑛里華は、自分の自由よりも、俺達を選んでくれた。
眷族にすることで、俺達の人生を壊したくなかったんだ。
自分が犠牲になる事で、俺達を守ってくれたんだ・・・。
馬鹿野郎・・・何一人で苦しんでるんだよ。

瑛里華が閉じ込められているのに、何も出来ない自分が悔しい。
俺は頭を抱えて、髪をぐしゃぐしゃにして、泣いた。


泣いている俺の肩にぽんと手が置かれた。

【司】「孝平、千堂を助けに行こう。」

司だった。

【征一郎】「八幡平。お前、今の話を聞いていたのか?」

【司】「聞くつもりは無かったんだが、聞こえた。
詳しい事情は、わからん。
だが、千堂が家に閉じ込められていると言う事はわかった。
そして、孝平の力が必要だということも。
なら、答えはひとつだ。」

【征一郎】「お前らは、千堂家の特殊性を理解していない。
お前らの力だけでは、どうにもならないのだ。
悪い事は言わん、瑛里華の事は忘れろ。」

【孝平】「嫌です。忘れたり出来ません。
俺は瑛里華に記憶を消されそうになった時、記憶を消さないでくれって頼みました。
そして今は、本当に記憶が消されなくて良かったと思っています。
それなのに、どうして瑛里華との時間を、忘れる事が出来るんですか!?」

俺は、叫んでいた。

【征一郎】「支倉、すまん。
それでも俺はお前たちを千堂家に連れて行く事はできない。
俺も瑛里華の事を何とかしたいと思っている。
だが、俺には東儀家当主としての立場もある。理解してはくれないか。」

【桐葉】「東儀先輩。案内は要らないわ。
千堂さんの家なら、私が知ってる。」

今度はいつの間にか、俺の後ろに桐葉が立っていた。

【白】「紅瀬先輩・・・」

【征一郎】「紅瀬・・・お前、さっきまで片づけをしていただろう。」

【桐葉】「あら、眷族の聴力を甘く見てもらっては困るわ。
孝平が行くなら、私も行く。
千堂さんには、私も色々と借りがあるし。
そして、私も自分自身に決着をつけなければならないわ。」

桐葉の言う決着。

桐葉の主のことだ。
瑛里華の母親は、おそらく桐葉の主である可能性が高い。

このまま主と会わずに時が過ぎても良かった。
俺と桐葉にとっては、それが一番都合がいいのかも知れない。
だが、桐葉は、瑛里華のために、主と立ち向かう覚悟を決めている。
俺にはそれがわかった。

【征一郎】「お前ら。」

東儀先輩がため息をついた。

【征一郎】「わかった。千堂家には俺が案内する。
お前らだけで行かれては、かえって面倒な事になる。
俺自身、瑛里華を助けたい。
お前達に賭けてみよう。
ただ、命の保障はできない。」

東儀先輩はそう言って、覚悟を決めた。
俺達は、千堂家に行く事になった。



陽菜、かなでさんを呼んで、事情を説明した。

瑛里華が吸血鬼である事や、眷族の事は、それとなくぼかした。
母親との折り合いがつかず、家に閉じ込められているという事、助けに行きたいと思っていることだけを話した。

そして、陽菜、かなでさんは危険なので来ないで欲しい、東儀家が用意するホテルに宿泊して欲しいと頼んだ。

【陽菜】「孝平君。」

【孝平】「なんだ?陽菜。」

【陽菜】「あのね、私、記憶が戻ったの。交通事故の前の1年間の記憶。
たぶん、薪を取りに言った時、あの石に触ってからだと思う。
それで・・・最初に言っておきたいの。
私、その頃、孝平君が好きだったみたい。
文通を始めたのは、好きだった孝平君に元気になって欲しかったんだ。」

その頃気づかなかった、陽菜の気持ち。
いきなり聞かされて、俺は驚いた。

【陽菜】「今も孝平君の事は好きだよ。でもね、それは大事なお友達としての好き。
孝平君には、桐葉さんと幸せになって欲しいと思ってる。」

陽菜は、続ける。

陽菜の目に、涙が溢れてきた。

【陽菜】「私、千堂さんの家に連れて行って欲しいの。
私、昔、交通事故にあったよね。
でも、怪我ひとつしてなかった。
それはね、千堂さんが、助けてくれたからなの。」

俺とかなでさんは同時に驚きの声を上げた。

【陽菜】「私と千堂さんとお姉ちゃんは、あの頃何回か遊んだ事があるの。
事故にあった日、私は、車に轢かれそうだった。もう助からないって思った。
車にぶつかる瞬間、千堂さんが私を助けてくれた。
ものすごいスピードだったわ。子供とは思えない、ううん、人間とは思えないくらいのスピードだった。
そして、私を軽々と持ち上げて安全な場所に運んでくれた。
私の無事を確認して、千堂さんは、ごめんね、ごめんね、って何度も謝って、泣きながら、私の記憶を消したの・・・」

そうだったのか・・・。
俺とかなでさんは絶句していた。

【陽菜】「私は千堂さんに、命をもらったの。
千堂さんが困っているのなら、私は助けてあげたい。
私が行っても、足手まといになるかもしれない。
でも、どうしても、行きたいの。
千堂さんに、会って、ありがとうって言いたいの。」

【かなで】「ひなちゃん・・・」


しばらくして、かなでさんがうなずく。

【かなで】「わかった。ひなちゃん。私も行くよ。
ひなちゃんの命の恩人にお礼を言わないなんて、私には出来ないよ。」

【陽菜】「お姉ちゃん。」

陽菜とかなでさんは手を握り合って、泣いた。


【陽菜】「孝平君。
それとね、もうひとつ言わないといけない事があるの。
私、交通事故の時の記憶と一緒に、他にも記憶が戻ってるの。
ううん、違う。
戻ったと言うのが正しいかわからない。
まだ、混乱してる。
でも、その記憶が、何か千堂さんと関係している気がするの。」

陽菜は、ひとつひとつ、言葉を探すようにして言った。

【陽菜】「もう少し、心の整理がついたら話すね。
だから、私、絶対に行かないといけないと思ってる。」

陽菜の目に、強い意志が宿っていた。



俺はもう一度全員に集まってもらった。

【孝平】「あれ?翼ちゃんは?」

【司】「『巨大打ち上げ花火』を取ってくる、だとさ。
ついでに、車のカーナビのテレビで『カメラは捉えた!世界の怪奇現象!!』っていう番組を見てくるらしい。」

ため息混じりにそう言う。

結局、翼ちゃん以外の全員が、千堂家に行く事になった。
司と話し合って、翼ちゃんは千堂家に行く途中、東儀家が用意したホテルに降ろして行く事にした。


− 命の保障は、出来ない。 −

東儀先輩の言葉を思い出す。

命の保障が出来ないなら、隠し事をしておくのは失礼だ。
俺は知っている限りの事をみんなに話した。

瑛里華が吸血鬼である事、俺が記憶を消されそうになった事、眷族の事、桐葉が眷族であるという事。
桐葉と主の鬼ごっこの事、桐葉の主が瑛里華の母親かもしれないという事。
幼い頃の陽菜が瑛里華に助けられた事。
瑛里華が屋敷に閉じ込められている事。
そして、それは瑛里華が眷族をつくらなかったからだという事。

時間をかける事は出来ない。
俺が知っている全てを出来る限りわかりやすくまとめて、手短に話した。

【孝平】「これが、俺の知っている全てだ。
陽菜、かなでさん、司。
今まで隠していて、申し訳ない。」

【司】「気にするな。
俺がお前でも、そうしてる。
全部話してもらって、嬉しい。」

俺の話に、誰も驚かなかった。
誰もが、少しずつ、思い当たるところがあったのかもしれない。

そして、少しずつ日常から離れていく空気に、みんなが気づいていたのかもしれない。

【征一郎】「話は支倉が言った通りだ。
あまり遅くなれば、千堂家の周りは物騒だ。
準備が出来たら、すぐに出発したい。」

あたりはもう暗くなっている。
わずかな夕焼けが西の空の一部を染めているだけだ。
時間は、8時を回っていた。


コテージに置いていた荷物を出した。
各自忘れ物が無いかを確認し、全員で、駐車場へ向かう。
翼ちゃんには申し訳ないが、もはや花火をやる時間は無い。
かなでさんが借りたレンタカーへと急ぐ。



レンタカーの前に、誰かが立っていた。

翼ちゃんだ。

翼ちゃん、と声をかけようとして、俺は異変に気づいた。
表情が今までの翼ちゃんじゃない。
車に向かって歩いていた全員が立ち止まる。

目が釣りあがり、鋭い光を放っている。

おかしい。
それは違和感だった。
いつの間にか、日常からかけ離れてしまった、違和感。

そして、恐怖が体を覆う。
逃れられない死が迫っているという、本能から湧き上がる恐怖。

恐怖を感じた次の瞬間、翼ちゃんの体が何の前触れも無く飛び上がった。
垂直に、5メートルは飛んでいる。

翼ちゃんは、そのまま俺達の方に飛んできて、桐葉に襲いかかった。



『FORTUNE・ARTERIAL』紅瀬桐葉(裏)ルート・6