『FORTUNE・ARTERIAL』紅瀬桐葉(裏)ルート・8
2008年09月05日16:11
『FORTUNE ARTERIAL』紅瀬桐葉(裏)ルート・7

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『FORTUNE・ARTERIAL』紅瀬桐葉(裏)ルート・8

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千堂家を囲む木々の一角が、ざんっ、ざんっと鳴る。
桐葉を肩に担いだ翼ちゃんが、木々を伝って逃げる。

やがて木々の音は止み、森が静寂に包まれる。

俺は、木々が鳴っていた方へ向かって走った。


暗い森の中、道ではない土の上を夢中で走る。

木の根につまずき、転ぶ。
膝に痛みを感じながら、再び立ち上がって走る。

時折、微かな音が聞こえる。
それが桐葉のいる方向なのかは、わからない。
でも、走るしかなかった。


全身に、汗が噴き出していた。
呼吸は荒く、気道を通る空気は、喉を切り裂くようだ。
吸う息に、血の味が混じる。
腕も足も、重く、痛い。

体中が、俺の脳の指令をうまく受け取ってくれていないように感じる。
体を動かすのがもどかしかった。

汗が冷たかった。

嫌な汗だった。


あの男のところに連れて行かれたら、桐葉の命は、無い。


それを考えると、体が硬直してしまいそうになる。
恐怖で震えが走る。
あの男に対する恐怖ではない。

桐葉を失う恐怖。


俺はまさに、悪夢の中を走っていた。


いつも見る悪夢。

それは、今日この瞬間の、予知夢だったのかもしれない。
強烈なデジャヴが俺の中に充満していた。

体は、さらに重くなる。
服を着て水中を動き回るように、自由がきかない。

走っても、走っても、桐葉は見つからない。


体のもどかしさとは正反対に、意識は研ぎ澄まされていく。
恐怖から逃れる事を許されない。

涙がこみ上げる。
泣き声が漏れそうになる。
俺は、奥歯をかみ締めた。



俺の脳裏に、桐葉の声が響く。

− 大げさね。ちょっと散歩してただけよ −

それは、だいぶ昔の事のようだった。
そして、今朝の桐葉の言葉だったことに気づく。

− 大体、携帯持ってるんだから、メールでもしたら? −


俺は、立ち止まった。

・・・そうだ、メールだ。

俺は携帯を取り出し、メール送信ランキングの一番上にある桐葉の携帯を選ぶ。
件名に、もう数え切れないくらい打ち込んだ言葉を入力して、本文を入れずに送信した。


「あいたい」


俺は、祈るように、深い森の闇を見つめた。


ピルルルル ピルルルル♪


桐葉の携帯の音が森に響き渡る。


【瑛里華】「兄さん、母様、そっちよ。」

【伊織】「わかってる。」

影が森の中に走る。

【伽耶】「いた!」

ざんっ、ざんっと木が震え、葉が擦れ合う音が鳴る。

そして、小さなうめき声が聞こえた。

【翼】「うっ。」


森の中が再び静まった。



【伊織】「支倉君。」

遠くで、伊織先輩の声が聞こえる。

【伊織】「君のお姫さまは、無事だよ。
あと、八幡平の妹さんも無事だ。」


伊織先輩の声を聞き、全身から力が抜けた。

全身が汗まみれで、呼吸が荒い。
心臓の鼓動が、今始まったかのように、急に聞こえ出した。

良かった・・・。


俺は、伊織先輩の声がした方に向かって駆け出した。



俺の進む先に、黒い影があった。

影の上に青白く浮かび上がる顔。


俺は立ち止まって、呟く。

【孝平】「闇人・・・」


【闇人】「お前が、真人だったか。
ふっ。久しぶりと言うには、時間が流れすぎたか。」

闇人の顔に、禍々しい笑みが浮かぶ。


【闇人】「私の珠を、消すか?」

闇人が俺に一歩近づく。

【闇人】「珠を消す方法を、師から受け継いだんだろう?
痛みに耐えかねて、話してくれたぞ。」

【孝平】「貴様・・・」

闇人に嬲られながら、俺に逃げろと叫ぶ師。
記憶が鮮明になり、俺の中で、闇人への憎悪の炎が燃え上がる。

【闇人】「私は、お前が珠を消す前に、お前を殺せる。
無駄とは思うが、やってみろ。」

闇人が一歩踏み出す。
すでに闇人の間合いに入っている。

闇人なら、一瞬で俺の首を吹き飛ばせるだろう。

【闇人】「しかも、お前・・・」

闇人がさらに邪悪な笑みを浮かべた。

【闇人】「永遠(とわ)なる者ではないのか。
珠はどうした。
お前なら、珠を作れるのだろう?
普通の人間が私に歯向かって、どうにかなると思ってるのか?」

【孝平】「俺は、もう珠は作らない。
俺は気づいたんだ。
限りある命だからこそ、尊いんだ。
人間は『獣』の力に触れてはいけないのだ。
研究は、俺が封じる。」

【闇人】「お前、しばらく会わぬ間に愚かさに拍車がかかってるようだな。
私を見ろ。この力を。
もうすぐ、私は『獣』になる。
『獣』の力を我が物と出来るのだ。
俺は『獣』に振り回されることも無い。
俺自身が『獣』であり、人間を超越した『神』となるのだ。
永遠の命と尋常ならざる力で、私は、世界を自分の物に変えるのだ。
人間など、俺の目の前にひれ伏す虫けらだ。」

闇人の目がギラギラと輝く。

【闇人】「お前も私と一緒に来い。
『獣』の力は素晴らしいぞ。
他の永遠(とわ)なる者の僕(しもべ)を喰らうと、『獣』の力が少しずつ自分の物になるのさ。
その快感がわかるか。
そして、珠を喰らえば、さらに快感は増す。
自分が『獣』になって行く。『神』に近づいて行くのだ。
これ以上の快感があろうはずは無い。」

闇人の話に、俺は激しい嫌悪感を感じていた。

俺は・・・、俺は普通の人間のままでいい。

【闇人】「真人・・・お前は珠を作れる。
珠を飲ませた人間の胸を開いて珠を喰らえ。
すぐに私と同じ『獣』になれるぞ。
お前なら、私と研究を続けて、更なる力を手に入れる事も出来る。
『神』すら越える事が出来るんだぞ。」

俺は唇を噛んだ。

【孝平】「嫌だ。俺は、今のままで良い。
貴様の好きにはさせない。」


ふっ、と闇人が笑う。

【闇人】「ならば・・・死ね。」


闇人が動く。



そして・・・

俺に触れる寸前、伽耶さんに蹴り飛ばされていた。


伽耶さんが、俺の前に立って闇人を睨む。
腕組みをして、不機嫌そうに呟く。

【伽耶】「父様に触るな。私が相手だ。」

瑛里華が桐葉を肩に担いで飛んできた。
ゆっくりと、桐葉を木の根元に横たわらせる。

伊織先輩は翼ちゃんを両手に抱えている。
お姫さまを扱うように、優しく桐葉の隣に横たわらせた。

【伊織】「俺も参加させてもらおうかな。おじいさまが死んじゃ困る。」

【瑛里華】「3対1ね。」

二人が闇人との距離を詰める。


闇人がジリッと半歩下がった。

【闇人】「活きの良い奴らだ。
だが、それでこそ、珠の喰らい甲斐もある。」

さらに、一歩下がる闇人。
僅かに、二人の間合いから、距離をはずした。

【闇人】「ふっ。まあいい。
まずは、あの屋敷の僕(しもべ)どもを喰らってやろう。」


闇人はそう言って、三人への警戒を怠らずに後ろへ飛び、そのまま闇の中に消えた。



俺達は、千堂家の屋敷に戻った。

翼ちゃんを布団に寝かせる。

桐葉をその横の布団に横たわらせようとした時、桐葉は目覚めた。

【桐葉】「私は・・・」

【孝平】「翼ちゃんに気絶させられて、連れ去られそうになった。
でも、伽耶たちが助けてくれたよ。もう、大丈夫。」

俺は桐葉の手を握った。
手を握り返し、微笑む桐葉。


【伊織】「支倉君。闇人の最後の言葉が気になったんだけど、なんて言ってた?」

【孝平】「確か、『あの屋敷の僕(しもべ)どもを喰らってやろう』、だったと思います。」

【伊織】「おかしいな。この島に紅瀬ちゃん以外の眷族なんていないんじゃないのか?」

その言葉を聞いていた東儀先輩の顔色が変わる。

【征一郎】「東儀家だ。
東儀家には伽耶さまの眷族がいる。東儀家が危ない・・・」

東儀先輩は立ち上がって、出口に向かう。
東儀先輩を伊織先輩が止める。

【伊織】「待て、征。
お前一人で行ったら、危険だ。
紅瀬ちゃん、瑛里華、一緒に行ってくれ。
俺達は残るメンバーを守る。」

伊織先輩は伽耶さんを見て、そう言った。


瑛里華と桐葉がうなずく。

【孝平】「俺も連れて行ってくれ。
可能性は低いかも知れないけど、タイミングによっては珠を消す方法を試せるかもしれない。」

それは口実だったと思う。
桐葉の事が不安だった。
もう、離れたくなかった。


【征一郎】「急いでくれ。時間が惜しい。」

不意に白ちゃんが立ち上がって、東儀先輩の元に駆け寄る。

【白】「兄さま。私もつれて行って下さいませ。」


白ちゃんを見つめる、東儀先輩。

【征一郎】「もちろんだ、白。一緒に行こう。」

東儀先輩はそう言って白ちゃんに手を伸ばした。
白ちゃんは嬉しそうにその手を握った。



東儀先輩の車に乗り込む。

【征一郎】「シートベルトを締めてくれ。乗り心地までは構っていられない。」

東儀先輩の声でシートベルトを締める。
俺が助手席。
桐葉、白ちゃん、瑛里華が後部座席に乗った。

シートベルトを締めた瞬間、車が出る。
加速がものすごい。
車のパワーもさることながら、東儀先輩はほとんどアクセルをベタ踏みだ。

東儀先輩の車は、細い山道を信じられない速度で駆け下りる。

舗装された道路に出てからは、さらにスピードは上がった。

カーブごとに振り回され、一瞬スピードメーターが見える。

時速160km。

・・・見間違いだったかもしれない。

グネグネと曲がりくねった道を、東儀先輩はほとんどスピードを落とさずに運転した。
何度か対向車が来て、死ぬ、と思ったが、東儀先輩はものすごい速度のままハンドルをきって、対向車をかわした。

人間の反応速度じゃない、と思った。


やがて、車は東儀家に着いた。



外から見る限り、変わった様子は無い。
車から降りた俺は、後部座席のドアを開ける。
瑛里華が降りた後、白ちゃんが降りるのに手を貸す。
白ちゃんは少し車に酔ったのか、青い顔をしていた。無理もない。
桐葉は流れるような動きで、車を降りた。

俺達は、東儀先輩の後ろに付いて歩いた。

東儀先輩が先頭に立ち、門を抜ける。
ここでも、変わった様子は無かった。


東儀先輩が戸を開け、玄関に入ると、そこに人が倒れていた。

【征一郎】「おい、大丈夫か、しっかりしろ。」

倒れていた男性を抱き起こし、東儀先輩が体を揺さぶる。
白ちゃんが、あの方は使用人の方です、と俺に囁いた。

【使用人】「う・・・、あ。征一郎さま?」

使用人の人が目をさました。

【征一郎】「どうしたんだ。何があった。」

【使用人】「玄関で物音がしたので、来てみたら、大きな男がいて・・・
気づいたら、征一郎さまがいらっしゃって・・・」

やはり、闇人はここに来ている。
それを認識し、俺達の体は緊張する。

【征一郎】「わかった。お前は無事みたいだな・・・。
ここにいるんだ。俺達は奥に行くから、来るんじゃない。」

東儀先輩の口調は静かだったが、拒否できない迫力に満ちていた。
使用人の人はうなずいて、その場にとどまった。


東儀先輩は屋敷の奥に進んだ。

屋敷には電気がついてなかった。
東儀先輩は一部屋ずつ電気を点けながら、屋敷の奥に進む。

古い日本家屋だった。
そして、かなり広かった。
入り組んだところもあり、一度来ただけでは、迷ってしまうかもしれない。


【征一郎】「この奥だ。」

東儀先輩が立ち止まる。

そこは、一見、廊下だった。
だが、よく見ると、奥に進む道がある。
間違えてここに来た人ような人は、まず気づかない通路。
意識のどこかに働きかけて進入を拒否するような、そういう作りの通路だった。

その通路の前に、俺達は立った。

【征一郎】「俺と支倉が行く。
瑛里華、紅瀬は白を頼む。」

俺はごくりと唾を飲み込み、東儀先輩の後に続いて、通路を奥に進む。


通路の奥に部屋があった。
家の中に蔵が入り込んだような、違和感の漂う作り。
その部屋の鍵が、変形して、無造作に落ちていた。

僅かに扉が開いている。
そして、微かに漂ってくる匂い。

これは・・・

血の匂いだ。


東儀先輩は部屋を開けた。



部屋全体に血が飛び散っていた。

そして、誰もいなかった。
東儀先輩は無言で部屋を見回す。

そして、部屋の真ん中あたりで血に塗れた何かを見つけた。
ハンカチを取り出し、血をぬぐう。

それは、指輪だった。


【征一郎】「これは・・・俺の、母親の結婚指輪だ。」


指輪を見つめ、東儀先輩が唇を噛む。

【征一郎】「ここには俺の両親を含め、伽耶さまに眷族にされた東儀家の祖先がいた。
皆、ヤツに喰われた・・・。」

東儀先輩の目に涙が光った。


部屋から、さらに奥に進む廊下が続いている。

血が廊下に飛んでいた。
そして、血の中に、大きな足跡があった。

闇人の足跡だ。

それはさらに奥に進んでいた。

東儀先輩は指輪を握り締め、廊下を一瞥した後に俺を見て、短く呼気を吐いた。

【征一郎】「行くぞ。」

俺はうなずく。


廊下は電気が付いているが、薄暗い。
落ちている血が、だんだんと少なくなっていく。


そして、廊下の突き当たりのところまで差し掛かる。

そこは、廊下の壁が大きく破壊されていた。
破壊されて出来た穴は、家の裏手の屋外へと続いていた。

闇人の姿は、既に無かった。



俺と東儀先輩は、瑛里華と桐葉と白ちゃんのところへ戻った。

東儀先輩が白ちゃんを見つめ、口を開く。

【征一郎】「白、お前に言わなければならない事がある。
俺達の両親は死んだと、ずっとお前に言っていた。
だが、それは、嘘だ。
真実を伝えずにすまなかった。」

白ちゃんが目を見開く。
だが、東儀先輩の目を、そらすことなく見つめていた。

【征一郎】「両親は、伽耶さまに眷族にされていた。
そして、伽耶さまの命令無しには動くことも出来ない状態になっていた。
代々、東儀家からは、伽耶さまに眷族となる者を差し出すしきたりになっていた事はお前も知っているだろう。
両親と同じように、眷族にされ、身動きすら出来なくなった祖先たちが東儀家にはいる。
両親はその祖先たちと一緒に、この奥の部屋に幽閉されていたのだ。」

白ちゃんは、それを聞いて口を開いた。

【白】「お父さまとお母さまが死んではいないということは、どこかで感じていました・・・」

【征一郎】「そうか。」

二人の間に沈黙が流れる。
やがて、東儀先輩が意を決したように口を開いた。

【征一郎】「白、落ち着いて聞いてくれ。
父さんと母さんは、他の先祖と一緒に・・・
闇人に・・・喰われた。」

白ちゃんは、さらに大きく目を見開いた。
その小さな体に、両親の運命はあまりに残酷だった。

東儀先輩が、白ちゃんに手を伸ばす。
そして、握っていたものを手渡した。

【征一郎】「母さんの・・・結婚指輪だ。」

白ちゃんは東儀先輩から指輪を受け取った。

【白】「母さま・・・、父さま・・・」

白ちゃんは、指輪を握り締めて、泣き崩れた。
東儀先輩は白ちゃんを優しく抱きしめた。

東儀先輩も、きっと泣きたかったんだと俺は感じた。



俺達は黙り込んでいた。
眷族を喰らい、闇人はさらに力を増しているはずだ。

どうすれば、闇人を倒せるのか。

【征一郎】「一番避けなければならないのは、戦力の分散だ。
そして、長期戦になれば、俺達が不利だ。
闇人は長い時間をかけて一人ずつ俺達を襲い、さらに力をつければ良い。
一人も欠けずにずっと闇人から全員を守るのは、困難なことだ。」

【孝平】「とりあえず、千堂家の屋敷に戻りましょう。」

【征一郎】「待ってくれ、支倉。
東儀家には、昔から不思議な力があると言われていた。
島の窮地を救う力だと言われている。
今が島の窮地だとすれば、東儀家に闇人を倒せる力があるのかもしれない。
もしかしたら、東儀家に伝わる御神刀が、闇人に対抗できうる力なのかもしれない。」

【孝平】「御神刀はどこにあるんですか?」

【征一郎】「珠津島神社だ。」

東儀先輩は、少し考え込むような表情をした。

【征一郎】「ただ、確信は無い。
もしかしたら、御神刀では闇人に対抗できないかもしれない。
先祖から伝えられているだけで、特別な力は無いのかもしれない。」

東儀先輩の言葉を聞き、俺は黙り込む。
話を聞いていた瑛里華が言った。

【瑛里華】「だけどこのままじゃ、どの道やられるわ。」

【桐葉】「そうね。どこに居ても、危険なことには変わりないわ。」

【白】「兄さま。行きましょう、珠津島神社へ。」

白ちゃんの声に、全員がうなずいた。



陽菜に電話して、東儀家が襲われて眷族が犠牲になった事、御神刀を手に入れるために珠津島神社へ行く事を伝えた。
そして、千堂家に残ったメンバーも、珠津島神社へ行くようにお願いした。

伊織先輩の指示で、すぐに動けるように準備していたらしい。
珠津島神社へすぐに出発すると返事をもらった。
すぐに出れるなら、向こうのメンバーが先に珠津島神社へ着くだろう。

東儀先輩は東儀家の分家へ連絡し、眷族が襲われた部屋と、壊された壁の処理を頼んでいた。
それが終わってすぐに、俺達も珠津島神社へ出発した。



東儀先輩の運転は、来た時と変わらないスピードだった。

生きた心地はしないが、何故か絶対に大丈夫と言う安心感があった。
すぐに珠津島神社がある山が見え始めた。

【征一郎】「追われてるようだな。」

東儀先輩がルームミラーを見て言った。

まさか、闇人が俺達を追ってきてるのか?

【孝平】「闇人ですか?」

東儀先輩が頷く。

このスピードに、付いて来ているのか・・・
だが、もう、何があっても驚けなくなってきている。
驚く感覚がリミッターを振り切り、壊れたらしい。


【征一郎】「まだ、闇人は遠いが、このままでは追いつかれる。
神社の駐車場までは行けそうにない。」

東儀先輩はそう言って、さらにスピードを上げた。

神社の階段が見えた。
駐車場は、道のまだ先だ。

神社の階段の前で、スピンしながら車が止まる。

【征一郎】「支倉。階段を上れ。
そして、何があっても戻ってくるな。
伽耶さまたちのところへ早く行くんだ。
御神刀の場所は白が知っている。」

俺と桐葉、瑛里華、白ちゃんが車から降りる。
言われるままに、階段を上る。

東儀先輩の車は、俺達を降ろした場所から動かない。

後ろ髪を引かれながら、俺達は階段を駆け上った。
白ちゃんを抱きかかえて瑛里華が走る。
桐葉が俺の手を引っ張って走る。
俺の体力は限界に近かった。


突然、東儀先輩の車のエンジン音が大きくなった。

俺は立ち止まり、階段の下の方を振り返った。
俺の手を引いていた桐葉も、立ち止まって俺の視線の先を見た。

タイヤが金切り声のような音を立て、車の周りに黒煙が立ち込める。

そして、東儀先輩の車は、急発進した。


その10mほど先に、闇人がいた。

車は、ものすごいスピードで闇人に激突して、そのまま闇人と一緒に崖下に転落した。
轟音を上げて、車が崖下に落ちていく。


【孝平】「ま、待ってくれ!東儀先輩が、闇人と一緒に崖から落ちた!!」

瑛里華の足が止まる。
抱えていた白ちゃんを降ろし、階段を戻ろうとする瑛里華。
桐葉もそれに続こうとする。

瑛里華の手から離れて階段に立った白ちゃんが、瑛里華と桐葉の前で手を広げ、二人を制した。

【白】「兄さまは私達に後の事を託して、時間を稼いでくれたのです。
今戻れば、兄さまの気持ちが無駄になってしまいます。
兄さまは、きっと大丈夫です。
お願いです。
先を・・・先を急ぎましょう。」


白ちゃんの頬に涙が伝う。


【瑛里華】「白・・・」

瑛里華、桐葉が階段の最上段を向いた。
そして、俺も。

もう、誰も振り返ること無く、神社の階段を駆け上がった。



『FORTUNE・ARTERIAL』紅瀬桐葉(裏)ルート・9