『FORTUNE・ARTERIAL』紅瀬桐葉(裏)ルート・9
2008年09月06日22:24
『FORTUNE ARTERIAL』紅瀬桐葉(裏)ルート・8

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『FORTUNE・ARTERIAL』紅瀬桐葉(裏)ルート・9

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俺は、神社の階段の最上段を踏みしめた。

神社の境内を照らす月は、その輝きを増し、青い光を放っていた。

呼吸を整えて、桐葉、瑛里華、白ちゃんの顔を見る。
月の光に照らされた三人の顔は、それぞれに決意の色が見える。
三人の表情は、凛として、美しかった。

腕時計を見る。
午前3時を回っていた。

【孝平】「行こう。」

三人はうなずく。

俺達は神社の境内を走った。
すぐに、神社の建物が見える。


建物の前に、外灯に照らされた人影が見えた。

【伽耶】「父様。」

みんなが、既に集まっていた。

俺に声をかけた伽耶さんは、建物の正面で伊織先輩と一緒に立っていた。
司と陽菜とかなでさんは、軒下に翼ちゃんを寝かせ、その脇に座っている。


【伊織】「支倉君、・・・征は?」

【孝平】「ここに来る途中、追ってきた闇人に気づいて、一人残りました。
そして、車で闇人に激突して、そのまま崖から落ちました・・・」

陽菜とかなでさんが、小さく、驚きと悲しみの声を上げる。
司も、目を見開いた。

それとは対照的に、伊織先輩は動じなかった。
伊織先輩は東儀先輩の覚悟を感じていたのかもしれない。

【伊織】「支倉君。
征が命がけで作ってくれた時間だ。急ごう。」

俺はその声を聞いて、言った。

【孝平】「白ちゃん、頼む。」

白ちゃんは、こくりと頷いて建物の正面の扉の前に立った。



建物の扉には、鍵が掛かっていた。

白ちゃんはポケットから鍵を取り出して鍵を開けた。
白ちゃんは扉を開ける。
俺と伊織先輩がそれを手伝った。

三人は建物の中に入った。


神社の中はかなり暗かった。

白ちゃんが壁を手で探り、電気を点ける。

正面に神棚が祭られ、祈祷の道具が並んでいた。

【白】「こちらです。」

白ちゃんは、右の奥の壁に向かって進んだ。
そして、何も無い壁の前に立つ。


壁の一部を何ヶ所か押す、白ちゃん。

重い音を立てて、何も無かった壁が左右に開いた。
その奥に、一振りの刀が祀られていた。

白ちゃんは、何かの言葉を呟いて一礼し、木の鞘に包まれた御神刀を手に取った。
そして、俺達の方を向いた。

【白】「これが東儀家に伝わる御神刀です。」

そう言って、伊織先輩に御神刀を渡した。
伊織先輩は、木の鞘から刀身を抜く。

刀の刃には、波のような文様が走っていた。
静かな力に満ちて、冷たい光を放っている。
心が吸い込まれるような光だった。


【伊織】「この刀、必ずお返し出来るように、鞘は返しておこう。」

伊織先輩は、刀が置いてあった場所に木の鞘を置いた。

刀を軽く振って、静かに言った。

【伊織】「柄にも無く、何かに祈りたいと思ってるよ。」



俺達は、御神刀を手に入れて、扉から外に出た。

白ちゃんは、陽菜とかなでさんのそばに座った。


刀を持ったまま、伊織先輩は伽耶さんに近づく。

そして、伽耶さんに言った。

【伊織】「俺はこういうのを持つのは性に合わない。
当たって砕けろってのが好きなのさ。
それに・・・こういうのは大将が持っておくもんだよ。」

伊織先輩は伽耶さんにウインクし、刀の柄を持って伽耶さんに渡した。

【伽耶】「伊織・・・」

伽耶さんはそう呟いて、伊織先輩から刀を受け取った。



何の音もしなかった。

だが、誰もが、その邪悪で強大な気配に気づいた。
全員が一斉に階段の方を見る。

そこだけが月の光に照らされていながら、暗い。

いや、闇が凝縮されたようだった。


そこに、・・・闇人が立っていた。


闇人の体は、前に俺が対峙した時より、さらに大きくなっていた。

身長は2mを優に越え、体を覆う筋肉の隆起が、さらに膨らみを増していた。
そして一番の違いは、外見ではなかった。

体の内に溢れる力が、桁違いだ。
それは、びりびりと肌に刺さるように感じる。


【闇人】「お集まりのようだな。
今夜、お前達のお陰で、私は『神』になれる。
先に感謝の言葉を述べておこう。」


そう言って、ゆっくりと俺達の方に歩み寄る。


伊織先輩、瑛里華、桐葉が、ゆっくりと伽耶さんの前に立った。


【闇人】「思わぬ邪魔が入って、少し遅くなった。
遅れたお詫びをするのが先かな・・・」


東儀先輩・・・

東儀先輩の車が、崖から落ちて行く映像が脳裏に浮かぶ。


【闇人】「あの程度で私を倒せると思ったのかもしれんが・・・」

ふっ、と闇人は笑った。


話しながら、速度を変えずに俺達に近づく。


そして、伊織先輩達の5メートルほど前で立ち止まった。
外灯に照らしだされる、禍々しい笑み。


【闇人】「さて、誰の珠を頂くか。」


【伊織】「誰の珠も渡さない。」

伊織先輩がそう言って、両手の拳を構え、闇人に向かって飛んだ。


伊織先輩の動きに迷いは無かった。
手加減が出来る相手ではない。
渾身のスピードで連続のパンチを放つ。

パンチのほとんどが見えない。
最初に闇人と戦った時よりも、はるかに容赦ないパンチのコンビネーションだった。
ジリジリと、闇人を後退させる。


優勢に押しているように見えた伊織先輩の体が、不意に、弾け飛ぶ。
3mほど横に飛ばされ、体が崩れ落ちそうになるが、踏みとどまった。

左頬が赤くなっている。

伊織先輩は、血を吐き捨てた。


右上段蹴りを繰り出した足を、ゆっくりと下ろす闇人。


【闇人】「この前喰らったのは、こういう技だったかな。」

くくっと闇人が笑う。


【伊織】「そうだったみたいだね・・・」

伊織先輩が唇をかみ締め、再び、拳を構える。



【瑛里華】「はっ!」

気合と共に瑛里華が飛ぶ。
蹴りを、闇人の顔面に放った。

同時に桐葉が走る。
低い姿勢で闇人の直前まで近づいて、体を沈めた。
地面から鋭角にジャンプし、闇人のみぞおちをめがけて、そのまま蹴りを放った。

逃れる術の無い、二方向からの必殺の蹴りだった。


だが、闇人はそれを、避けなかった。


二人の蹴りをそのまま受けて、そして、微かに笑った。


瑛里華の右足は、闇人の左のこめかみを捉えていた。

闇人は蚊でも捕まえるように、瑛里華の右足を左手で無造作に捕まえた。
逆さ吊りにされた瑛里華のスカートがまくれ上がり、白い下着が丸見えになる。


桐葉の右足は正確にみぞおちに達していた。
だが、ぶ厚い筋肉に阻まれて、内部にダメージを伝えてはいなかった。

桐葉は、必殺の蹴りがノーダメージだった事で、驚きを隠せなかった。
そのせいで、体勢が崩れる。

闇人は瑛里華を逆さに吊るしたまま、右足で桐葉の腹部を正面から蹴った。


桐葉は俺が立っている方に、ぶっ飛ばされる。

俺は反射的に桐葉を受け止めた。
そのまま神社の建物の壁に、俺は背中から激突した。

【孝平】「ぐはっ!」

思わず、声が漏れる。

建物の壁の木材が、ベキベキと音を立てて割れる。
そして、俺のあばら骨からも、乾いた音が複数響いた。
数本、折れたようだった。

そのまま桐葉と建物の前に跪く。


桐葉が立ち上がり、俺の顔に手を触れる。

【桐葉】「孝平!大丈夫!?」

【孝平】「大丈夫、だよ・・・」

そう言って、俺は咳込んだ。
咳と一緒に、血が混じった唾液が飛ぶ。
背中に咳が響いて、痛みが走った。

【孝平】「生きてるから・・・行ってくれ、桐葉。
俺は大丈夫だ・・・」

桐葉は唇をかみ締め、目に涙を溜めながら、俺から手を離した。
そして、立ち上がった。



【伽耶】「おのれっ!」

伽耶さんの目に、怒りの光が満ちる。
一瞬で闇人の前に現れ、瑛里華を吊り上げていた左手を、御神刀で斬りつける。

闇人は、握っていた瑛里華の足を離して、左手をひいた。
伽耶さんの御神刀が空を斬る。


解放された瑛里華は、くるりと回転して着地した。


闇人は右手を突き出し、伽耶さんの腹部に掌底を叩き込む。
伽耶さんはすばやく反応して飛ぶが、完全には避けきれず、掌底を喰らって吹き飛ばされた。

体勢を崩しながらも、数メートル離れたところに着地する。
だが、体がふらついていた。


【瑛里華】「母様!」

瑛里華は、一瞬伽耶さんの方に気を取られた。

次の瞬間気づいた時には、闇人の左上段蹴りが瑛里華の目前に迫っていた。
瑛里華は右手で辛うじてブロックしたが、ブロックごと弾き飛ばされた。

【瑛里華】「きゃあああっ。」

瑛里華の悲鳴が神社の境内に響き渡る。
瑛里華は神社の石畳に叩きつけられた。



闇人の力は圧倒的だった。

もし仮に誰かの珠が喰らわれたとすれば、もはや誰も、触れる事も出来ないだろう。


神になる。

そう言った闇人の言葉は、恐らく真実だ。
闇人は、人間の奥底に眠る『獣』の力を全て解放し、自分のものとするだろう。

今倒せなければ、もう二度と倒す事は出来ない。
そこにいる誰もが、そう確信した。


倒れている瑛里華に闇人が詰め寄る。

闇人は、瑛里華の胸を見据えていた。
瑛里華の胸の中にある珠に、意識が向いている。

瑛里華のダメージは抜け切れていない。
体を起こそうとするが、力が入らない。

迫り来る闇人を見て、瑛里華の目に恐怖の色が浮かぶ。

【瑛里華】「い、いやああああっ」

瑛里華の悲鳴が上がる。


その瞬間、瑛里華に迫っていた闇人の動きが止まった。

ゆっくりと、後ろ・・・神社の階段の方を振り返った。


闇人の右の肩甲骨のあたりに、一本の矢が突き刺さっていた。

闇人が視線を向けたその先に立っていたのは、・・・東儀先輩だった。



東儀先輩の髪は、所々、血で赤く染まっていた。

左手に弓を持っている。

肩で大きく呼吸をしている。
全力で走ったから、というだけでは無い。
血を失い、体の内部にもダメージを抱えている、そういう呼吸だった。

その顔に、いつもの眼鏡は無かった。

【征一郎】「遅れて・・・、済まない・・・」


東儀先輩は、そう言って、倒れた。
弓を引く力が、東儀先輩の振り絞れる、最後の力だった。


東儀先輩が倒れたと同時に、闇人の体が前のめりになる。

東儀先輩に注意を向けた闇人の後頭部に、桐葉が蹴りを叩き込んでいた。



それが、合図だった。


伊織先輩が闇人に詰め寄る。

前のめりに倒れそうになる闇人の前で、大きく回転し、その勢いを全て乗せた右後方回し蹴りを闇人の顔面に叩き込んだ。
前のめりになっていた闇人の体は、強制的に起こされる。

闇人の鼻が歪み、右の鼻孔から血が流れた。

【闇人】「ぐはっ。」

伊織先輩はそのまま闇人の左手を取り、両足と両手を使って、締め上げる。


伊織先輩をどかそうと右手を伸ばす闇人。

その動きを阻むように、瑛里華の右膝が闇人の右わき腹にめり込んでいた。

【闇人】「うごっ。」


瑛里華はそのまま闇人の右手を取って、伊織先輩と同じように両手、両足を使って、闇人の右手を締め上げた。


仁王立ちの闇人の体が、伊織先輩と瑛里華に締め上げられ、ギシギシと軋みを上げる。


そして、闇人の背後に、桐葉が立った。


桐葉は闇人の背中に飛んで、右腕を闇人の首に回した。
回した右腕を左手でロックし、闇人の首を締め上げる。


苦悶の表情を浮かべる闇人。


桐葉が叫んだ。


【桐葉】「伽耶!今よ!!」


その声に弾かれるように、青い月に向かって、伽耶さんが飛んだ。



伽耶さんの狙いは、闇人の胸だった。
闇人の胸に、御神刀を突き立てる・・・

それで闇人の中にある珠のいくつかが破壊できれば、完全に『獣』になりきっていない闇人は、その力を削がれるだろう。

後ろから闇人の首を締め上げる桐葉には交わらない角度で、全霊を込めた突きを闇人の胸に放った。



− くくっ −


それは、全てを打ち砕く響きだった。

俺達の僅かな希望を粉々にする悪魔の笑いだった。


いつの間にか闇人の顔から苦悶の表情が消え、口の端が、吊りあがっていた。


罠だ・・・


そう思った瞬間、闇人は、ホコリを振り払うように無造作に右手を大きく振った。
右手を締め上げていたはずの瑛里華の体が弾け飛び、境内にある石灯籠に打ち付けられた。

石灯籠が、瑛里華のぶつかった部分を中心に割れて、折れた。

瑛里華は石灯籠の前に落ちて、うつぶせに倒れ、動かなくなった。


【孝平】「瑛里華!」

俺は、思わず叫ぶ。
血の泡が口からこぼれた。


闇人が左手を振る。

伊織先輩は森に飛ばされ、木の幹にぶつかる。
伊織先輩がぶつかった木は、メキメキと音を立てて倒れた。


両手が自由になった闇人は、桐葉の両腕を握って力任せに、はずす。
回転しながら桐葉を振り回し、神社の建物に向かって桐葉を投げ捨てた。

桐葉は受身も取れない体勢で神社の扉に当たり、扉を突き破って、神棚に突っ込んだ。
神棚と祈祷の道具が粉々になって、散乱した。

【孝平】「桐葉!」

【陽菜】「きゃあああああっ!」

陽菜が悲痛な叫びを上げる。
白ちゃんとかなでさんは、司につかまって震えていた。


闇人は、伽耶さんの方を向いた。

そして、胸に迫る御神刀の突きを、両手で挟んで止めた。


そして、

御神刀を、・・・折った。



御神刀の刃先が石畳に落ち、澄んだ金属音を立てる。

闇人は、刀が折れて立ち尽くす伽耶さんを見逃さなかった。
左手で伽耶さんの首を正面から掴む。

軽々と伽耶さんの体を持ち上げ、伽耶さんの首を締め上げる。

【伽耶】「ぐっ!」

伽耶さんの顔が苦悶の表情で歪む。

【孝平】「伽耶!」

俺の目から涙がこぼれる。
俺の声は、空しく神社の境内に響いて消えた。

伽耶さんの右手から折れた御神刀が落ちる。


【闇人】「ほう、この娘、永遠(とわ)なる者でありながら、珠を持っていないようだな。
・・・面白い。
ならば、心臓でも喰らうとするか。」

闇人が嬉しそうに笑みを浮かべ、右手の指を揃えて、手刀を構える。


その時、伊織先輩が闇人に向かって飛んだ。

【伊織】「やめろおおおおおっっ!!」

伊織先輩の怒号は、神社を囲む森に響き渡った。
哀しい雄叫びだった。

放物線を描いて、伊織先輩の体が闇人に迫る。
蹴りも技も何も無い、ただ大事なものを取り返したい子供が向かって行く、そういう飛翔だった。

そして、伊織先輩の体は、闇人の体に触れる前に、止まった。


闇人の右手の手刀が伊織先輩の胸に突き刺さっていた。
伊織先輩のシャツに血の染みが広がり、闇人の手を伝わって伊織先輩の血が流れる。

闇人は、首を締め上げていた伽耶さんを、左手で投げ捨てた。
石畳に伽耶さんの体が打ち付けられる。

闇人はためらうこと無く伊織先輩の胸を探り、血に塗れた丸い珠を取り出した。
右手にその珠を握り、伊織先輩の体をその場に落とした。


【闇人】「ついに、珠を手に入れたぞ。
私は、『神』になるのだ。
ふ、ふ、ふははははは・・・」

闇人は、血に塗れて光る青い珠を右手に持ち、月の光に掲げて笑い声を上げた。

闇人は、倒れた伊織先輩と伽耶さんに目もくれず、境内の中央にゆっくりと歩いて行った。



伽耶さんが、伊織先輩を抱き寄せる。

【伽耶】「い、伊織・・・」


伽耶さんに抱かれたまま、声を発しようとする伊織先輩。
その口から血が流れる。

【伊織】「か、かあさん・・・」


伽耶さんが自分の唇を噛む。
伽耶さんの口から、赤い血が滴り落ちる。

伽耶さんはそのまま伊織先輩に口づけた。

伽耶さんは、珠が無くなった伊織先輩を眷族にしようとしていた。


【伽耶】「伊織、死ぬな。死んではならぬ。
命令・・だ。
死んでは・・・ならぬ。」

伽耶さんの声がかすれる。
伽耶さんは、大粒の涙をぽろぽろとこぼした。

伊織先輩の頬に、伽耶さんの涙が落ちる。

伽耶さんは、伊織先輩の手を握り締める。
伊織先輩も、微かな力で、伽耶さんの手を握り締めた。


【伊織】「母さん、い、いつも、反抗ばっかりして・・・ごめん・・・
もっと、もっと・・・
一緒に、いたかった・・・」


伊織先輩の目から涙が流れ落ちる。


【伽耶】「伊織。
伊織。
死ぬな。
死んではならぬ。
私の方こそ許してくれ。
お願いだ。
生きてくれ。
やっと・・・
やっと、これから一緒に暮らせるのに・・・
これからなのに。
これからなのに・・・」

伽耶さんの声が詰まる。

伊織先輩の顔から生気が消えて行く。


【伊織】「さいごまで・・・
か、かあさんのいうことがきけなくて、
ご、め・・・ん・・・ね・・・」


伊織先輩の手が、伽耶さんの手から落ちる。


【伽耶】「いおりいいいいいいいぃぃ」


伽耶さんの声が、青い月空に、こだました。


『FORTUNE・ARTERIAL』紅瀬桐葉(裏)ルート・10