『FORTUNE・ARTERIAL』紅瀬桐葉(裏)ルート・10
2008年09月07日02:34
『FORTUNE ARTERIAL』紅瀬桐葉(裏)ルート・9

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『FORTUNE・ARTERIAL』紅瀬桐葉(裏)ルート・10

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闇人が、掲げていた珠を握り締める。
伊織先輩の胸にあった青い珠。
珠自体が生きているかのような不思議な輝きを放っていた。

闇人は、大きく息を吐き、そして、次の瞬間、珠を飲み込んだ。


それは、竜巻に似ていた。

神社に散らばっていた闇が、渦を巻いて闇人に集まって行くようだった。
闇人を中心に闇が集まり、闇が集まるに連れ、力が密度を増して行く。

闇人の体は、ビキビキと音を立てるように少しずつ内側から膨らんで行く。
筋肉が量を増し、骨が伸びる。
2mを優に越えていた身長が、さらに大きくなる。
体中に剛毛が生え、牙が伸びて行く。
爪がみるみるうちに伸びて、とがって行く。

闇人は徐々に人間の限界を超えていた。

人間の中に眠る力を、全て解放する姿。

俺は、その姿に恐怖する。
自分の中にも、そのような『獣』が潜んでいるのだ。

闇人とは、ほんの少し道が違っただけかもしれない。
研究を続けていれば、この姿に変貌したのは、自分かもしれなかった。


【闇人】「おおおおおおおおおお・・・・」

闇人は咆哮をあげた。
それは、力を手に入れる快感の咆哮だった。
闇人はその快楽に身を任せていた。


そして、闇の竜巻が収まった時、その『獣』は誕生していた。



【獣】「すこぶる良い気分だ。」

唸るような声で、闇人だった『獣』は呟く。

『獣』の周りに、陽炎のように、力があふれ出しているのがわかる。
見ているだけで魂が吸い取られ、弱って行くような感覚。
気をしっかり持っていないと、倒れそうだった。

『獣』は、軽く腕を振る。
10mほど先にあった石灯籠が、豆腐のようにスパッと切れて、バラバラになった。



もう、俺達が『獣』を倒す可能性は潰えた。


この夜は、もう明けないだろう。

獣の圧倒的な力の前に、俺達は、なす術無く消えるしかない。


俺は、何かに祈るように、天を見上げた。



雪・・・

月の青い光が満ちる空に、白い粉雪が舞っていた。

俺の手元にも粉雪が降りてくる。


粉雪と思ったそれは、温かい光だった。

無数の光が、島全体にゆっくりと降り注いでいた。


『獣』の立つ境内と同じ空間に、光が満ちていた。

それは、夢の中のような光景だった。

神社の建物の前で、光に包まれた白ちゃんが舞を舞っていた。
流れるような舞。
白ちゃんから溢れた光が、空に舞い上がり、雪のような光となって島全体に降り注ぐ。


『獣』の動きは止まっていた。

柔らかな光が、もやのように『獣』の周りを取り囲んでいる。


舞を舞い続ける白ちゃん。


そして、俺の意識に、白ちゃんの声が聞こえた。

【白】「みなさん、私は今、東儀家に伝わる力によって覚醒しました。
島とみなさんの窮地を救うために、私は、私と島の力を使います。
東儀家の女性には不思議な力が眠っています。
そして、この島はその力を増幅する、言わば増幅装置です。」

白ちゃんの舞は、続く。

そして、白ちゃんの声が意識に直接響く。

【白】「伽耶さんが生まれる時に、東儀家の妹は島の力を使いました。
それは稀人さんの『獣』の力を一時的に封じ、東儀家の姉に子を授けました。
東儀家に伝わる力は、『獣』を封じ、人を癒す力です。」

白ちゃんの声が少しだけ憂いを帯びる。

【白】「島の力を全て解放します。
この島にある『獣』の力は全て封じられるでしょう。
闇人の力、そして、千堂家にある力も全て、封じられます。
もう、この方法でしか、島も世界も、みなさんも救う事は出来ない。」

白ちゃんの体が一層輝きを増す。

白ちゃんの声が、ちょっとだけためらい、そして、明るく響いた。

【白】「私は、皆さんの事が大好きでした。
私の命、使います。」


白ちゃんの舞は続いている。
白ちゃんの体から出た光が、天に昇って、雪のように島に降り注ぐ。

木々が、森が、土が、光を帯び始めた。
島全体が、ほのかに発光し始めた。


闇人だった『獣』にも光が降り積もる。

瑛里華に、伽耶さんに、伊織先輩に、東儀先輩に、翼ちゃんに光が降り積もる。


白ちゃんの体から、徐々に光が消えて行く。

少しずつ、舞が乱れる。

やがて、白ちゃんを包んでいた最後の光が天に昇り、そして、雪のように降り注いだ。
白ちゃんを包む光は消えて、白ちゃんの舞は、糸が切れた人形のように、ぷっつりと終わった。

その場に白ちゃんが倒れる。



島全体を覆っていた光が徐々に薄くなっていく。

『獣』を覆う光も、薄くなっていく。
動きが止まっていた『獣』が、その枷が外れるように、少しずつ動きを取り戻していた。

光が消えて動かなくなった白ちゃんの方へ、少しずつ、『獣』が動く。


その時、獣の両肩に、光が二つ輝きだした。


− 白 −

二つの光は、白ちゃんを呼ぶ。

そして、二つの光から、白ちゃんに光が流れて行く。
白ちゃんに光が満ち、白ちゃんはゆっくりと起き上がった。

『獣』の両肩に光る二つの光を見て、白ちゃんが叫んだ。

【白】「父さま・・・、母さま・・・」

二つの光は、闇人に喰らわれた白ちゃんの父と母だった。


【母】「白・・・大きくなったわね。」

【白】「母さま。」

白ちゃんが光に向かって涙ぐむ。


【母】「そして、立派で優しい女性になってくれたわ。
私達は、白の成長をとても嬉しく思ってる。
私達はいつもお前を見守っているよ。
そして、そばにいるよ。
悲しまないで。
私達は伽耶さまを恨んでいない。
どうか、千堂家の方々と、末永く仲良く暮らして行くのよ。
白、征一郎、愛しているわ。
さあ、涙を拭いて。
立ち上がりなさい。」

【父】「私達の命を代わりに捧げるよ。
祖先の方々もそう言っている。
白、島を頼んだよ。」


二つの光は、『獣』を離れ、白ちゃんを優しく抱きしめるようにして、白ちゃんの中に入って行った。

そして、それに続くように、多くの光が『獣』を出て、白ちゃんに入って行った。


光を受け入れた白ちゃんは、涙を拭いて、微笑んだ。

【白】「ありがとう、父さま。母さま。」

白ちゃんは、再び舞い始めた。


白ちゃんから天に昇った光は、さっきよりさらに多くの光となって島に降り注ぐ。


島全体が優しく光り始める。

『獣』は光に包まれ、苦しそうにもがき始めた。

瑛里華、伽耶さん、伊織先輩、東儀先輩。
そして、翼ちゃんが光に包まれる。



そして、『獣』の前に、桐葉が立っていた。

折れた御神刀を右手に持っている。
桐葉の体も光に包まれていた。

桐葉の持った御神刀の刀身に、光が集まる。
光は、光る刀身となった。


桐葉は涙を流していた。

その涙は、『獣』への哀れみか。
眷族として過ごしてきた日々との惜別か。


桐葉は御神刀を構えた。
刀身の光が揺らめく。

そして、『獣』に向かって、飛んだ。


【桐葉】「さよなら。」


御神刀の光る刀身は、『獣』の胸を貫いた。
『獣』が闇人として喰らった珠が、『獣』の胸の中で弾けた。


『獣』が断末魔の声をあげる。


光に包まれ、獣は、少しずつ、砂のように光に溶けていく。
島全体が一層、強い光を放った。

『獣』が、島から、消え去った。



明けないと思っていた夜が明けた。

神社が朝日に照らされる。

俺は、桐葉と手を繋いで、朝日を見つめた。

【伽耶】「父様。」

伽耶が俺の手を握る。

【陽菜】「綺麗だね。」

陽菜が桐葉の手を握る。

【瑛里華】「ホント、今までで一番綺麗。」

瑛里華が笑って、伽耶さんの手を握った。

【かなで】「ゆっくり寝たいよ。」

かなでさんが陽菜の手を握る。

【司】「みんな、ありがとうな。」

司が翼ちゃんの手を握って、みんなに見せる。
翼ちゃんがにっこり微笑んで、言う。

【翼】「ありがとう。」

司は、かなでさんの手を握った。

【伊織】「死ぬかと思ったよ。」

伊織先輩はいつもの口調で、瑛里華の手を握った。

【白】「みなさん。ご無事で何よりです。」

白ちゃんは、伊織先輩の手を握った。

【征一郎】「まったくだ。」

東儀先輩は、白ちゃんの手を握った。


みんなで手を握って、朝日に照らされた。
朝日が目に染みて、ちょっとだけ、俺は涙目になった。



当日、俺は入院した。

結局、俺が一番、重症だった。
みんなは、白ちゃんと島の力で、傷が治ってしまったらしい。

俺は、白ちゃんへの愛が足りなかったのか。
白ちゃんはそんな事ありませんと、慌てて手を振っていた。


東儀先輩は、もし傷が残っていたとしても、入院する暇など無い、と言っていた。
事件の後片付けは、ほとんど東儀先輩がやった。

怪我人が俺くらいしかいなかったのと、戸籍上、死んだ人が誰もいなかったので、大事にはならなかったらしい。

ただ、珠津島神社の崖下に転落した車や、桐葉が突っ込んだ神棚など、珠津島神社の荒れっぷりは処理に困ったらしい。
お見舞いに来てくれた時に、入院したい、と漏らしていた。


もう一つ、東儀先輩が言っていた。

東儀家のしきたりについてだ。
千堂家との係わり合いが変わった事で、必要の無いしきたりが増えてしまった、これを機会に見直して行きたいと言うことだった。
白ちゃんが東儀家以外の人と結婚したければ、それでも構わないと。
形骸的なしきたりよりも、東儀家や島を大事にする気持ちを伝えていきたい、それを白ちゃんに教わった気がすると東儀先輩は言っていた。


瑛里華は、白ちゃんと島の力で人間に戻っていたが、胸に珠が残っていた。
俺は、お見舞いに来てくれた瑛里華の珠を、消した。

同じ日に陽菜とかなでさんが見舞いに来て、瑛里華に、事故で助けてくれた時の御礼をしていた。三人は泣きながら、笑った。


瑛里華の話では、伊織先輩は「海が好き」と書置きを遺して、次の日からいなくなってしまったらしい。瑛里華は「なんのこっちゃ」とキレていた。

今は、瑛里華は伽耶さんと買い物したり、料理したりして普通に家で過ごしているらしい。


司は、翼ちゃんを連れてお見舞いに来た。
妹が迷惑かけて済まなかったと翼ちゃんに頭を下げさせて言った。
翼ちゃんは神妙な面持ちで、次に追いかけるのは、吸血鬼はやめてミイラにしますと言って笑った。


残りの夏休みを珠津島の病院で過ごし、そして、退院して、大学に戻った。

普通の女の子に戻った桐葉を連れて。



− 半年後、4月 −

俺と桐葉は、再び珠津島を訪れた。
重大なイベントに参加するためだ。

イベントの開催地は、修智館学院だ。

学院の門の前で、かなでさんと陽菜に会った。そして、司がいた。

【かなで】「おっすー、こーへー、元気にしてたかな?」

【孝平】「かなでさんには、負けますけどね。」

【司】「おっす。」

【陽菜】「おっす、孝平君。」

【桐葉】「みんな、ひさしぶり。」

俺と桐葉の目が、かなでさんと司の手に注がれる。
二人の手が握られていた。

【陽菜】「ほら。おねえちゃん。報告しないと。」

【かなで】「う、うん・・・」

【司】「すまん。言うのが遅れたけど、俺とかなで、付き合う事になった。」

かなでさんが赤くなる。
司も照れている。

【孝平】「そっか。良かった。これからは、かなでさんの世話をよろしく頼むぞ。」

【かなで】「こらあ、先輩を子供みたいに言わない!」

かなでさんは膨れた。


【白】「支倉先輩!」

【孝平】「白ちゃん。」

白ちゃんが駆け寄ってくる。
東儀先輩も一緒にやって来た。

俺は駆け寄ってきた白ちゃんを抱きしめる。
白ちゃんは、続いて桐葉を抱きしめた。

【征一郎】「久しぶりだな。支倉。紅瀬。」

【孝平】「はい。東儀先輩。
その後は、落ち着きましたか?」

【征一郎】「ああ。珠津島神社は改修されて、だいぶ綺麗になった。
今年の祭りには、良かったら来てくれ。」

俺はにっこり微笑んで、うなずいた。


そして、今日のイベントの主賓が登場した。

【伽耶】「父様。」

【孝平】「伽耶。」

瑛里華と伊織先輩と手を繋いで歩いてきた伽耶さんは、俺を見つけると二人の手を離して走り出した。
そして、伽耶さんは俺の胸に飛び込んで来た。
俺は、ブレザー姿の伽耶さんを抱きしめて、ぐるぐると振り回した。

この前あった時より、ちょっと背が伸びたのか、制服のせいか、ずいぶん大人びて見える。

【伽耶】「桐葉。」

伽耶さんはそう言って、俺の次に桐葉に抱きつく。


今日は、伽耶さんの修智館学院の入学式だ。
これから、6年間、この修智館学院で、普通の生徒として学院生活を送る。
俺達の青春が詰まった、学院だ。

【かなで】「伽耶。」

かなでさんは、伽耶さんに手を上げる。

【伽耶】「母様。」

伽耶はそう言って、かなでさんの手にハイタッチした。
そのまま、陽菜に抱きつく。

こうして見ると、まだまだかわいい子供だ。


【瑛里華】「母様。そろそろ時間だから行くわよ。」

【伽耶】「こら、瑛里華。
学院では母様と呼ぶなと言ったであろう。
あれだけ練習したのに・・・」

伽耶さんが、むすっとすねる。

【瑛里華】「あ、ごめーん、伽耶。
さ、行きますよ。」

【伊織】「学院では、俺と瑛里華の妹って事らしい。」

伊織先輩がそう言って、肩をすくめた。

今は、三人で洋館を改装して、普通に過ごしているらしい。


伽耶さんは、笑顔で走り出した。



入学式が終わって、俺と桐葉は、あの丘へ向かった。

この後、千堂家でパーティーの予定だ。
俺は伽耶さんに「ちょっとだけ」と頼み込んで、解放してもらった。


桐葉と一緒に丘の上に立つ。

新緑が、気持ちよく風になびいている。
この丘は、俺達が学院にいた頃と変わらない。

気持ち良い風に、桐葉の黒髪が舞う。


【桐葉】「いいなあ。」

【孝平】「えっ。」

【桐葉】「私も入学式に来たい。」

【孝平】「え、今日、来てるじゃない?」

桐葉は首を振った。

【桐葉】「違うの、私たちの子供の入学式。」

そう言って、少し、頬を赤らめた。


子供か。そうだなあ。

いつか、この丘で、桐葉と子供達と一緒に海を見たい。

俺と桐葉の思い出がたくさん詰まったこの丘で。
新しい家族と新しい思い出を作って行きたい。


俺は桐葉にうなずいて、桐葉の手を握った。





<完>